2013年7月13日土曜日

郵便局

郵便局が好きだった。
昔々、一人で旅をしていたとき、絵はがきを買って最寄りの郵便局に行って切手を買い、それをポストに投函する。遠いところから自宅までつながっている差出口が妙に郷愁を誘った。

今でも郵便局は好きである。
海外に出ると、一度は郵便局に行く。
日本の郵便局とは違っているが、絵はがきを買ってポストに投函することは一緒。海を隔てたところから自宅までつながっている差出口が、日本を思い出させてくれる。

堀川アサコ『幻想郵便局』(講談社文庫、2013年5月9刷)

生協の書籍コーナーで企画ものとして展示されていたため、『大学生に読ませたい本なのだろう』と思い、『大学生に読ませたい本とはどんな内容なのだろう』と興味を持った。

主人公は就活がうまく行かない阿倍アズサ。
アズサのもとに大学就職課からアルバイトの誘いが来る。理由はアズサの特技が「探し物」だったこと。アルバイトを求めていたのは登天郵便局。
登天郵便局には、無限に広がる花畑の手入れをする赤井郵便局長以下、妙におかまっぽい青木さん、大男で鬼のような鬼塚さん、郵便配達人で郵便局の大家である登天さんたちが局員として働いている。そして登天郵便局に「功徳通帳」への記帳のためにやってくる人たちがいる。

登天。
天に登る。
幼い頃のアズサは、この郵便局がある小高い山(狗山)に遠足に来た。そこには神社があった。
今は郵便局に変わっている。しかもこの郵便局は、現世からあの世に向かう入口。成仏できて地獄極楽門をくぐり抜ける者がいるかと思えば、成仏できずに郵便局のまわりをさまよう者もいる。これらの人々は、アズサを含む登天郵便局の局員には見えるが、 一般の人たちには見えない。

アズサが登天郵便局で探すのは木簡。登天郵便局では狗山の土地の権利関係を書いた起請文を紛失し、これを巡って、もともとあった神社の守り神(狗山比売:イヌヤマヒメ)との間で一悶着。これを解決するためには木簡が必要というわけだ。そしてアズサはその木簡を見付ける。
しかし物語は幾重にも重なり合った出来事の中で進み、単に木簡騒動だけでは終わらない。
アズサに関係するさまざまな人間が登場し、ストーリーが展開する。

何とも不思議な味の小説である。
この手の話はどこにでもありそうな話ではある。小説だからできる描写もある。
しかし、作家が女性だからなのか、それとも主人公が女子大生だからなのか、逆をいえば小生が男だからなのか、『ふーん、そんな風に考えるものなのか』と思ってしまう。そして結構怖い。とくに、放火によって他殺された島岡真理子が登場するくだりは怖い。(笑)
登天郵便局と狗山比売の戦いは、郵便局の負けで意外なほどあっけなく終わる。神は死者をも上回る能力があるというわけか。

そしてもうひとつ。
島岡真理子にまつわるミステリ風謎解き。
こちらはアズサの遠い親戚であるエリがきりもりする満月食堂の客を中心にして話が進む。登天郵便局とは違った現世が舞台であるにもかかわらず、こちらも夢か現か分からないような展開になる。島岡真理子がなぜ成仏できなかったのかを知りたくてページを先に先にと進める。

郵便局がAからBに郵便物を運ぶ入口であるように、郵便局はまた、現世とあの世をつなぐ入口。
なかなか面白い発想だ。

大学生協書籍部がこの本をオススメしたのは、女子大生を主人公に据えているからなのだろうか。就活がうまく行かなくても、目の前の出来事を笑い飛ばす主人公を見習って頑張って欲しいというメッセージが込められているのだろうか。それとも、非常に軽いタッチで書かれているので、大学生にも読みやすいということなのだろうか。

帯広告を見れば、「読書メーター読みたい本」と「ブクログ文庫本」のランキング1位になったようだ。
いずれにしても夏の夜に読むのにはふさわしい作品ではある。

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