昨夜は、サンピアザ劇場プレミアムステージ。
厚別高校演劇部
『私の父』(演出:佐藤みきと・高島美玖)
『私の父』は「雪は空からの手紙」で知られる中谷宇吉郎(劇中名:田中弥吉郎)をモデルに、高名な研究者をその子どもの視線で描いた演劇である。したがって、研究者としての中谷ではなく、夫・父としての中谷が描かれる。
舞台設定は敗戦後の1946年から宇吉郎が亡くなるまで。
物語の中では、宇吉郎の随筆から得られた「ロストワールド」「立春の卵」などが紹介される。「ロストワールド」はドイルのSF小説で、これを宇吉郎が子どもたちに読み聞かせる。その面白さに魅了された息子が作った「イグアノドンの唄」。 この息子は栄養低下でわずか9歳で病没する。
「立春の卵」は、久しぶりに思い出した話。この話が中谷宇吉郎の随筆で紹介されていたことは知らなかった。
また登場人物に中谷の病気治療をした医師が出てくるが、これが武見太郎だったということも驚きだった。
お芝居という点からは、もちろん合格点である。厚別高校のサンピアザ劇場での単独公演は4回目だそうだが、毎年部員が入れ替わることを考えれば、レベルを維持するのは大変だろうということは察して余りある。今回も、主役の田中弥吉郎を演じた男子生徒はもちろんだが、とりわけ長女佐知子を演じた女子生徒は、台詞がわざとらしくなく、間の取り方もうまかった。声もスッキリと通っていた。
他の「役者さん」たちも、それぞれに個性的に演じていて好感が持てた。
形式上の演出は生徒さんが務めていたが、ストーリーを含めて顧問の戸塚先生の力に負うところ大であろう。厚別高校の演劇は今年の3月以来だが、何度か観劇していて、何となく戸塚ワールドが分かってきたような気もする。
一言でいえば、抑制的。
観劇後に、例によって劇評会と相成ったが、共通する感想が「たんたんと過ぎていったよね。」
『私の父』も、いくつかの挿話で構成され、それが組み合わさって構成されていたが、全体的に見れば大きな盛り上がりもなく、ラストも静かに終わる。この演出は、ちょうど『不知火の燃ゆ』の演出を想起させる。
『不知火の燃ゆ』は、プロの役者さんたちが演じていたので、「役者」として抑制的な演技はできるのだろうが、これを「演劇部員」にもさせてしまうところが戸塚先生のすごさかもしれない。
上演時間:58分
神谷演劇賞対象作品
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